どんな仕事に転職すればいいかわからない

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転職は大きな決断の一つです。転職をすると業務内容や給料や休日だけでなく、仕事の人間関係が一変します。場合によっては引っ越すことになって、プライベートの人間関係まで変わる可能性もあります。そのため、なかなか踏み出せないことも珍しくありません。
「今の仕事を辞めて転職したいが、どんな仕事に転職すればいいかわからない」。そんな風に悩んだ時は、「人物の影響」に気づくと、いまの自分にふさわしい決断ができるようになります。
人物の影響には、「原動力」と「呪縛」の2種類があります。誰かの言動が喜びや怒りになって、自分の決断を促してくれる。その影響が原動力です。誰かの言動が悲しみや常識になって、自分の決断を妨げてくる。その影響が呪縛です。
「卒業したら、死んじゃう」

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中学校の教師だったある男性は、自分の教え子の影響に気づいたことで、特別支援学校に転職しました。その生徒は自閉症スペクトラム障害で、学力は極めて高いものの、生活能力や社会性が著しく劣っていました。また二次障害として精神疾患があり、強い不安を抱えていました。
彼はその生徒が三年生の時に担任になりました。進学の時期ということもあって、その生徒は非常によく勉強し、それまでとは見違えるほどまともに学校生活を送るようになりました。ところが卒業式を控えた時期に、彼はその生徒から手紙をもらいました。その手紙には、「先生が担任でよかった。この学校を卒業したくない。卒業したら、死んじゃう。」と書かれていました。
卒業式当日、その生徒は「会場をぶっ壊してやる」と奇声を発しながら、体育館の会場をめちゃくちゃにしようとしました。学校敷地内を逃げ周り、警察、パトカーに終われ、道路に飛び出し、最後は彼の目の前で大人数人に取り押さえられ、そのまま救急車の担架に縛り付けられ、精神病院に緊急入院しました。
目の前で自分の教え子が取り押さえられて精神病院に運ばれる。それがどれだけ悲しかったのか。その悲しみの分だけ、その生徒の存在は彼にとって強い呪縛になりました。彼は中学校では「生徒指導主任」という役職を校長に任され、中学校教員としてのキャリアを順調に積んでいました。しかし、その一方で、自分の仕事にぬぐい切れない違和感を覚えていました。
自分にはやり残したことがある

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自分が囚われている呪縛に気づくと、その呪縛から抜け出して、その相手と改めて向き合えるようになります。また、人物の影響は多面的です。同じ人物のある一面が呪縛になることもあれば、別の一面が原動力になることもあります。
彼はその生徒の影響に気づくことで、「自分にはあの時やり残したことがある」と考えるようになり、似たような生徒が集まる特別支援学校への転職を決断しました。これまで呪縛だった人物が、改めて向き合うことで原動力になったのです。
「私は当時の自分を許せなくて縛っているのかもしれません。自分でいい思いをしたいだけなのかもしれません。でも、いわゆる『手のかかる生徒』に密に関わってみたいと思っています。そうしない人生もあると思いますが、どうしても引っかかっていました。特別支援学校にいって、やっぱり絶望するかもしれない。でも、このまま現状留まることはできないとも思っています」
彼がそう考えて転職の決断をしたのは、卒業式から6年後のことでした。このように人物の影響による決断には、年単位の時間がかかります。悲しみが深ければ深いほど、立ち直るのに時間がかかるのは当然です。こうしたことは早ければいいというものではありません。
体験談を聞くと「人物の影響」に気づける

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決断のコツは、「自分は誰のことを気にしているのか?」という問いかけです。そう問いかけることで、誰かの顔がパッと浮かんでくると、「じゃあ、こうしよう」と決断できます。また、常日頃から「この人に対して、こう思った」という記録をつけていると、いざという時のための決断力を養えます。そのために行うのがマインドレコーディングです。
しかし、人物の影響には、一人では気づけないものもあります。彼のような6年前も前の出来事がきっかけだと、「人物の影響」は心の深い部分に作用しています。昨日の晩御飯のおかずを思い出すのとは、全く意味合いが変わってきます。
こうした場合に役立つのが相談です。彼が教え子の影響に気づいて決断に至ったのも、悲しみから自分がやり残したことを見つける体験談をたくさん聞いていたからでした。誰かと話している時に、相手の体験談に対して、「そういえば自分にも似たようなことがあった」と連想が働くと、自分の心の深い部分にある人物の影響に気づくことができます。
後悔から「次」が見つかる

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人物の影響は、仕事に大きく関係しています。「自分は誰に影響を受けたのか?」を突き詰めた先にあるのが、「自分は誰に影響を与えるのか?」だからです。その問いかけの答えとして決断するのが転職です。
給料や休日といった労働条件で、転職先を決めることももちろんあります。しかし、もしそうした内容だけでは踏ん切りがつかないのなら、これまでの仕事全体を振り返ってみてください。
あの時、ああすればよかった。あの時、ああ言えばよかった。そんな風にやり残したことは誰にでもあります。そして、そのやり残したことが、自分が次にやることです。後悔は決して悪いものではありません。その後悔に関わった相手と改めて向き合えば、その人物が呪縛から原動力に変わり、新しい仕事へ踏み出す決断を促してくれます。