「自分がやりたいこととかけ離れている……?」

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ある大学院生は2年目間近になって、学校に行けなくなりました。その原因について、「自分がやりたいことと、大学院の研究内容があまりにかけ離れているから」と自分で分析してみたものの、あまり効果はなく、状況も行動も変わりませんでした。
彼の趣味はファッションです。ただ好きな服を着るだけではなくて、自分で洋服を作って販売したり、ファッション雑誌を作ったり、イベントを開いたりしています。なかでも雑誌は名刺がわりになって、同年代の若手アーティストや俳優との繋がりができました。
それに対して、大学院での研究内容は赤外線センサーに関するものでした。「ファッション」と「赤外線センサー」というかけ離れたテーマの間で、バランスが取れなくなった。彼がそう考えたのも当然かもしれません。
しかし、本当の理由は別の部分にありました。その別の部分とは、対人関係です。彼はその知り合った若手アーティストと自分の活動を比べて、「相手の方が自分よりすごい」という印象を受けました。そしてその結果、「自分はもっと頑張らなくてはならない」と考えるようになりました。
幻想を破る

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行動の背景には常に人物の影響があります。その影響の種類はさまざまです。「こんなすごい人がいるのか」と思っても、それが「自分も頑張ろう!」と励みになることもあれば、「自分はもっと頑張らなくていけない」と呪縛になることもあります。彼の場合は、残念ながら後者でした。
しかし、彼はそのアーティストから受けた影響を自覚できずにいました。そのせいで「大学院に通う意味があるのか?」と考え、それがさらにエスカレートして「『二十代はこれをやる』という何かを決めなくなくてならない」「大学院を続けるか、やめるかを今すぐ決めなくてはいけない」と悩むようになりました。このように「誰に影響を受けているか?」を自覚していない思考は、極端にエスカレートしがちです。
マインドレコーディングは人物の影響に気づくことで、行動と人生を変える手法です。彼から相談を受けた私はその状況を聞いて、「あなたが大学院に行けなくなった原因は、そのアーティストに『負けた』と劣等感を抱いたせいですよ」とアドバイスしました。
対人関係はイメージで成り立っています。相手が実際にどんな人物なのかを全て知ることはできないからです。どんな両親に生まれて、どんな環境で育って、どんな友人に囲まれて、どんな価値観を持つようになったのか。そういった背景を知るのは困難です。そのため、どうしても目の前の出来事から、「こういう人なんだろう」と想像するしかありません。
しかし、そのイメージには現実とは異なる幻想が数多く含まれています。自分が「すごい」と思った人であればなおさらです。そして、その幻想が彼のようにマイナスに働く場合もあります。その場合に必要なのは、その幻想を破ることです。
そもそも彼がそのアーティストと知り合ったきっかけは、自分が作った雑誌でした。その雑誌を相手が「面白い」と思い、彼のイベントを手伝ってくれるようになりました。その経緯を見れば、そのアーティストと彼との関係は対等です。
私がそうお伝えすると、彼は憑き物が落ちたように冷静さを取り戻しました。そして今まで通り、ファッション関係で活動しつつ、大学院に行くことになりました。その後、彼から「自分が一番好きだった頃の自分に戻れました」とお礼のメールをいただきました。これが人物の影響に気づくことで行動を変えるマインドレコーディングの効果です。
大切なのは「誰に影響を受けているのか?」

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「大学院に通えない」
「自分のやりたいことと、大学院の研究がかけ離れている」
「『二十代はこれをやる』という何かを見つけなくてはならない」
「大学院を続けるか、やめるか」
こうした考えは単なる物事にすぎず、取るに足らないことです。大切なのは「誰に影響を受けてそう考えるようになったのか?」という根本原因です。その原因に気づけば、自分がどんな行動を取ればいいのかが自然とわかります。
もし今まで普通にできていたことができなくなったら、「続けるべきか、やめるべきか」と追い詰められたら、「誰に影響を受けているのか?」と自分に問いかけてみてください。「あの人だ」と誰かの顔が浮かんだ時、「自分はこうしよう」と選択できるようになります。