県民性はどこから来るか?
白洲正子という昭和の随筆家がいます。小林秀雄や青山二郎から骨董について薫陶を受け、日本の美について多くの随筆を残した人物です。
彼女は自分が薩摩隼人であることと、伯爵樺山家に生まれたことを強く意識していました。そのことで夫の白洲次郎と口論になり、張り手をしたこともあったそうです。
薩摩の隼人一族は「勇ましく、すばしこいこと」で知られています。この白洲次郎とのエピソードはその勇ましさを象徴しています。また、彼女には東西を奔走する姿から、「韋駄天お正」というあだ名がありました。こちらはすばしこさを象徴していると言えます。
行動の背景には、人物の影響があります。彼女は「東京生まれの山の手育ちで、一度も鹿児島に住んだことはない」と話しています。自分が鹿児島で生活したことがなくても、鹿児島に住んでいた家族と生活していれば、鹿児島県民らしさが備わるようになります。
親が子に与える影響

Free-Photos / Pixabay
子供は、父母や祖父母からとても強い影響を受けています。自分が影響を受けた人物を特定していくと、その大部分が父母や祖父母に行き当たります。
父母や祖父母の影響は生活の端々に出るちょっとした言動や思い出話によって、子供にゆっくりと浸透しています。これは「あの時、あの人が、ああ言ったから」と特定できる影響とはまた別種のものです。
どんな親に生まれてくるかは選べません。だからこそ両親や祖父母の影響は宿命的な色彩を帯びています。しかし、それでもなお家族の影響が、子供の可能性を制限することはありません。「自分が何をしたいのか?」「自分を何をすべきか?」という問いには、すでに親の影響が含まれています。そのため、自分が納得できる答えも、親の影響を含めたものになります。
「こんな親に生まれれば、こんな風に生きられたのに」と想像しても、納得できる生き方は見つかりません。「こんな親に生まれたから、自分はどうしようもない」と考えたら未来はありません。「この親に生まれた自分だから、これをやる」あるいは「これをやるために、この親に生まれてきた」と考えられるようになると、それが納得できる生き方になります。
もっとも、この状態になるにはそれなりに時間がかかります。自分が常に誰かの影響を受けていること、そして父母の影響が特に強いことを自覚できるようになってからです。そうなるには年単位の時間がかかります。しかし、「こうすれば簡単にうまくいく」というウソに踊らされて、時間を無駄にするよりは救いがあるでしょう。
自分のやりたいこと、やるべきことの見つけ方

Graehawk / Pixabay
マインドレコーディングは、自分が影響を受けた人物を特定することで、信念のある行動をできるようにします。そして、影響を受けた人物を特定するために、他人をヒントにすることをステップの一つにしています。
白洲正子の著書『白洲正子自伝』には、西郷隆盛を主人公にしたNHKテレビドラマ『翔ぶが如く』を見ていた時に涙を流したというエピソードが載っています。彼女が涙を流したのは、田中裕子が演じた隆盛の後妻「いと」が、兵児二才という青年団を先導して荒馬を飛ばすシーンでした。
「私も徳川時代に生まれていたら、きっとあのとおりのお先っ走りをやっていたに違いないと、思わず吹き出してしまった。吹き出しながらも、そぞろに涙をもよおした。忘れていた鹿児島の血が蘇ったのである」と彼女は記しています。
彼女の言う「鹿児島の血」は、家族の影響を意味しています。これはつまり、テレビドラマをヒントにして、自分の信念の拠り所となる「人物の影響」を確認したということです。こうした確認作業の積み重ねによって、信念は作られます。いわゆる「自分に自信がある人」「自分を持っている人」ほど、この確認作業を積み重ねています。
「自分のやりたいこと」「自分のやるべきこと」について悩んだら、ぜひマインドレコーディングを実践してみて下さい。自分が影響を受けた人物を確かめることで、その答えが導き出されることがわかります。