喧嘩を売られなくなった

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「最近、職場で喧嘩を売られなくなった」
先日、相談者のSさんからそんな連絡がありました。彼は職場で問題を抱えていました。気の強いが同僚がいて、その同僚にことあるごとに怒鳴りつけられたり、難癖をつけられたりしていたそうです。
学校でも職場でも、頭のおかしい人間はどこにでもいます。勝手に物事を決めつけて、それが叶わないと癇癪を起こすのです。そして、その被害を受けるのは、物事を穏便に済ませようとする穏やかな人間です。Sさんがまさにそのタイプでした。
人間には文明的な部分もあれば、野蛮な部分もあります。そして、それは普段のコミュニケーションにも反映されています。自分の虫の居所が悪い時に、相手に難癖をつけて、溜飲を下げようとする。しかも、それがさも正論であるかのように、理屈でカモフラージュする。
「なんできちんと片付けないの!」
「なんで言われた通りにやらないんだよ!」
この「なんで」は理由を求めていません。自分が望む状態になっていないことに腹を立て、その感情的な不満をぶつけているだけです。「怒るのと叱るのは全く違う」と言いますが、「野蛮か文明的か」の違いがそこにはあります。
心に剣を持て

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こういったやりとりは親子、友人、同僚など、あらゆる人間関係で起きています。というよりも人間は人間である前にまず動物なので、フラストレーションが溜まると、これをどこかで発散したくなるのです。この時、人は容易に公私を混同します。仕事でむしゃくしゃすることがあって、家族にそれをぶつけるのはその典型です。
Sさんはこの当たり散らしの標的にされていました。動物は一番抵抗しなさそうな相手を獲物に選びます。穏便に済ませようとするタイプは、時にこの無抵抗の獲物に見えてしまいます。
ですから、こういった問題を解消するには、こちらも動物的な側面を出さなくてはなりません。マインドレコーディングでは、すべての相談者に「心に剣を持て」というアドバイスをしています。
人は誰もが感じたいものを感じられる力があり、感じたいものを感じられる権利があります。それが奪われようとするならば、戦わなくてはなりません。動物は生まれながらにして、身を守るための爪や牙を持っています。それと同様に、私たちは「それは違う」と相手にノーを突きつけることが、生まれながらに許されているのです。
「心に剣を持て」というと、物騒に聞こえるかもしれません。しかし、こちらが無抵抗ではなく、自分が傷つけられる恐れがあるとしたら、相手もそう簡単に手は出しません。ですから、ここでいう剣とは、お互いに手を出さないための抑止力です。
本当は言いたい事があるのに黙っていたり、嫌だと思っているのにヘラヘラしていると、相手はますます調子に乗ってきます。一方的な暴力によって、争いが表面化していないことを「平和」と呼ぶならば、「ふざけるな」と声を上げて戦う方が何倍もマシです。
変化は心から始まる

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私も学生時代から、物事を穏便に済ませるタイプでした。しかし、そういった態度でいると、こちらを舐めてかかる相手も出てきます。その現れ方は馬鹿にしたり、軽く小突いたり、と色々です。
そんな時は、一度相手を脅しつけたり、殴りつけたりすると、「ああ、こいつは手を出しちゃいけないんだな」と相手も気がついて大人しくなります。面白いのは、それで相手と疎遠になるのではなく、仲良くなれるのです。
私は子供の頃から父親の仕事の都合で転校を繰り返していました。転校先でいつも同じことが繰り返されていたので、途中から「ああ、またか」となんとも思わなくなりました。もし子供の頃に今の知識があれば、そんな面倒自体が起こらなかったかもしれません。
「やられたらやり返す」
「言われたら言い返す」
「無抵抗をやめる」
もしあなたが理不尽さを感じているならば、まず心の中でそう決めましょう。どんな言動になるかはケースバイケースです。ただ、すべての変化は心の変化から始まります。それは間違いありません。
Sさんには「自分の価値を理解し、大切に扱うことで、はじめて周囲も一目を置くようになる」と話していました。自分に自信を持つこと、自分の価値を認めてあげること。自分に価値があるならば、それを奪おうとする者から守ろうとして、当たり前です。
こういった心の変化が、立ち居振る舞いを変え、言動を変え、そして周囲の人間の反応を変えていきます。自分を開いて発する「自己啓発」は人生を変えるための、もっとも根源的なアプローチです。
もちろんあまり我が強すぎても、周りと軋轢を生んでしまうかもしれません。しかし、そういった心配をするのも、まず自分が剣を持ってからです。「争いごとは良くない」「人を傷つけてはいけない」と私達は幼い頃から教え込まれていますが、自分が傷つけられている状況を無視して、理想を持ち出しても仕方ありません。
大切なものを奪われ、いらないものを押し付けられる。そんな人生はもう終わりにしましょう。誰かを傷つけようとするのではなく、降りかかる火の粉を払おうとするだけです。自分の意思と感性を守るために剣を持つのは、人間以前の、動物として与えられた当然の権利です。